今から60年前、どこの街とも同じように大遊廓中村の灯りは消された。多くの家がトルコや旅館に転業する中、この家は当時の姿を変える事無く、学生寮やアパートとして第2の人生を歩んできた。なにせ20部屋以上はある大きな家である。
僕たちに与えられた部屋は2階の一番奥の部屋であった。
廊下の照明は古さ故に漏電の恐れがあり使用する事ができず、日中であるにもかかわらずやたらと暗く感じる。廊下には無造作に物が置かれ、暗さのせいもあり部屋に辿りつくのはなかなか容易ではない。
中庭からの光も行き届かない場所に、その部屋はひっそり位置していた。
閉ざされた戸を見ると、小槌や隠れ笠などが配された福を招く宝尽しの文様が掘り込まれていた。
部屋の戸を開ける前にふと考えてみた . . . .
” かつてこの部屋には女が住みついていた ”
” かつてこの部屋には様々な男が出入りしていた ”
その女と男は、この部屋で一夜限りの恋に陥るのだ . . . .
想像は脳裏を膨らませ、ひとつの物語が頭の中で繰り広げらる。
しかし、今はあまりにありきたりなストーリーしか描ける事しかできない。
僕たちは吉祥の描かれた、重い戸を開けてみた . . . .
(つづく)
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